



それは定年退職を意識しだした55歳頃のことです。「定年後の生活」という社内研修を受けたことでとりたてて趣味のない横田さんは自分に危機感を覚えました。
「この先、61歳で定年を迎えそれからの人生がまだ20年もある。何か始めないと…」
そう模索しだした横田さんは休日に東海自然歩道を歩いて愉しむことがあったことから
「何もそんなに遠くまで行かなくてもこの細河地域だってじゅうぶん自然豊かで魅力的じゃないか」
ということに気づき退職後はここ伏尾台近隣で自然観察を始めることにしました。自然観察ではいろんな鳥や植物を見ることができますが、それらの名前をほとんど知らなかった横田さん、次第に誰かに聞いてでも名前をちゃんと知りたいとう思うようになりました。ところが見てきた鳥の特徴を専門家に一生懸命に説明したところで正確に伝わらず、正しい名前を教えてもらうことができません。そこで横田さんは生きものの写真を撮ってそれを見てもらえば一目瞭然、専門家に名前や特徴を教えてもらえると気づきました。それからというもの自然観察には必ずカメラを持って出かけ、出会った鳥などの写真を撮ってはそれを博物館などに持ち込み名前や特徴を聞き出しておられました。
「これは何という鳥ですか? どんな特徴がありますか?」
そんなことを続けていた横田さん、いつのまにか写真を撮ることがどんどん好きになり観察に加えて写真撮影も趣味となっていました。
それまでの横田さんは写真といえば家族のスナップ写真や記念写真程度のもので専門的なカメラの知識はありませんでしたが、今ではプロ仕様の機材を揃えモチーフも鳥だけでなく、植物や昆虫、哺乳類など、あらゆる種類の生物へと広がっています。

横田さんの写真集や独自のサイト「生き物観察記」では特にトンボがクローズアップされています。
「トンボはね。ひとつの池でその一生を私たちに見せてくれるのですよ」
トンボは幼虫時代を水中で過ごし、その後陸上に上がって羽化し、縄張りをつくり、交尾し、産卵するという一連の生活史を、同じ池で継続して見届けることができるのだそうです。他の生き物ではどこでどう暮らしているか分からないことが多いなか、トンボはその生活のすべてを追いかけられる点が横田さんにとって大きな魅力であり、そのドラマを追い続けるモチベーションなのです。
特に印象的なのは、羽化の瞬間への感動です。水中で暮らしていた幼虫が陸上に上がり、殻から羽を広げて空へ飛び立っていく。水中の生き物がいきなり空を飛ぶようになるその変化に、生命が水中から陸上へと進出していった進化の歴史が一瞬にして凝縮されているように感じるのだそうです。
また、トンボの行動そのものへの関心も強く、メスが交尾のあと卵塊を作り、水面に降りて水中の草に卵を産みつける瞬間など、一つひとつの行動を観察しカメラに収めること自体が楽しく、実際にトンボの産卵の瞬間を捉えた写真は大変貴重です。

トンボは環境の指標にもなる生き物という側面もあります。水がきれいな場所を好むトンボもいれば、畑が放置されてできた水たまりのような環境を好むトンボもいるなど、種類によって好む環境が異なる点も観察の面白さにつながっているのだそうです。 こうした「一生を通して観察できること」「一つひとつの行動の面白さ」「進化の歴史を感じさせてくれること」が重なり、いつしか横田さんにとってトンボは特に思い入れの強い存在になったのだそうです。

横田さんが最も心惹かれる植物は、「アマナ」という早春の花です。 アマナの開花の時期は早春。枯れ草ばかりの殺風景な土手から春に真っ先に咲く野草です。
「枯れ草の中に見つけると春の訪れを感じられる、そんなアマナの繊細な姿が好きなのです」
そう眼を細める横田さん、もう一つの理由は、花の形そのものの美しさです。チューリップに近い草花で細く繊細な花の姿が印象的。その見た目にも魅力を感じることができ「甘いナッパ」で、アマナ。現代では食用とすることはほぼありませんが若菜はおひたしなどにして食べることができ、根っこも食用にできるのだそうです。

そしてもう一つ、希少種となったアマドコロという野草。この花には環境変化にまつわる寂しい背景もあって以前は明るい林内などに普通に見られた花でしたが、近年は鹿の食害によって数が減り、今ではほとんど見られなくなってしまったとのことです。かつては東山町などにもたくさん自生していたそうですが、それも今はなくなってしまったと横田さんは話してくれました。
これらの野草は単に花としての美しさだけでなく、季節を告げる存在としての情緒的な価値と、長年の観察を通じて感じてきた「失われつつある里山の自然」への思いが重なり合って、横田さんにとって特別な思い入れのある植物になっているようです。

かつて近畿地方にも普通に生息していたニホンリスですが、現在は南の方ではほぼ絶滅しており、和歌山や奈良などでは外来種のタイワンリスに取って代わられてしまったのだそうです。追いやられた原因については、縄張り争いというよりも食べ物の競争によるものではないかと推測しておられます。
「タイワンリスの方が競争に強く、居場所というより餌場を奪われた結果ではないかと思っています」
また、横田さんは伏尾台にはニホンリスは絶対いないとはっきり断言する一方、伏尾町や東山町の山裾の林内にはまだ生息していると具体的な場所をご存じなのだそうです。
「餌となるのは、もともと植木用に植えられていたヒマラヤスギで、これが大きく育ち、普通の松より量の多い松ぼっくりを付けているため、そこがニホンリスの餌場になっているのですよね」
そう語る横田さんの見解は、生息の可否についてまさに「餌があるかないか次第」なんだそうです。
横田さんはこのリスを希少種であり、その存在自体を知らない人も多い珍しい生き物だと位置づけています。そして、これが失われていくとしたら、餌を人間が奪ったか、外来種に奪われたか、そうしたことが原因で滅びることになるだろうと、淡々としながらも危機感をにじませておられました。
横田さんの語り口調からは、先ほど触れていた里山の荒廃と同じで、横田さんは、生き物一種一種の減少を個別の問題としてではなく、人間が畑や植木の手入れをやめ、農業の「営み」が失われたことの結果として捉えており、ニホンリスの減少もその大きな流れの一部として、静かな寂しさとともに受け止めている様子がうかがえます。
会話の中で横田さんは、里山とは「作るもの」ではなく、農地や畑の営みが順調に行われた結果として生き物の多様性が育まれる場所なのです。
「景色の美しさや生き物の豊かさは、いわば地域の農業や暮らしが元気かどうかを示すバロメーターなのです」
そう話す横田さんは定期的な草刈りや植木の手入れといった人の営みがあってこそ、多様な生き物が生きられる環境が保たれるのだと考えておられます。
「裏を返せば、植木が売れなくなり産業が荒廃し、畑や植木畑が放置されると、その環境に依存していた特定の生き物(たとえば特定の草花を食草とする蝶や、アマナのような早春の草花)から真っ先に姿を消していくということですね」

同時に、鹿による食害という要因も種の減少に拍車をかけていると指摘しつつも、根本にあるのは植木産業の衰退により人が農地を手放し営みをやめてしまったことが原因なのだと強く語っておられました。
さらに、この問題は個人の努力だけでは解決できないのだそうです。市街化調整区域の問題など、土地利用は行政や政治の決定に左右されるため、農業、ひいては里山を守るには組織的・政治的な取り組みが必要だという認識も示された横田さん、
「食べ物(生息環境)があるかどうかがすべてなのです」
タイワンリスなどの外来種の繁殖といった話題についても人間と野生動物が適切に住み分け、餌場を確保できる環境を維持することこそが、里山の生き物たちの生存に不可欠なのだということを語ってくれました。
写真を通して自然の生き物が生息していける環境について深く心をくだいておられる横田さんの姿勢がとても伝わってきました。

植物は動かないため、スマホでも十分に撮影可能ですが、最近のスマホは望遠機能なども良くなってきている。
その一方で、手で持って撮ると手ブレしやすいことに注意して撮るのが、スマホで動物や植物をキレイに撮るコツですね。
またトンボなど小さく動き回る昆虫を撮る際は、まず縄張り場所(止まり木や定位置)を見つけて、そこでじっと待つことがおススメ。トンボは狭い領域で活動するため、その場所を見つけてスマホで待ち構えれば撮影し易いのです。
あと鳥については、望遠レンズでないといい写真は撮れないです。スマホにも望遠モードが装備されているものも多くありますがやはり鳥の撮影には限界があるのです。私自身も鳥を撮る際は一眼レフと望遠レンズを駆使しますので、スマホでならなるべく望遠モードでスマホがブレないように固定して撮りましょう。
スマホでも一眼レフでも被写体の習性を理解し、それに合わせて機材や撮り方を選ぶというのが良い写真を撮ることにつながります。

横田靖さんの最新情報は下記SNSからチェック頂けます。
池田市の北部に位置する細河地区でトンボや草花、魚、野鳥、動物などを2023年より観察・撮影し、ネット上にアップされています。
■横田靖(せい)さんのホームページ→

細河地区の生き物たちの生態をありのままに写真に収めて写真集にしたものです。「生き物たちの営み」、細河の「野の花」、「山野鳥」など、それぞれ種類に分類し小冊子化したものもあります。
よく見かけるアメンボや雑草と思っていた草花も、こうして改めて人から紹介されて見てみると、不思議と愛着が湧いてきます。
